尾崎弘之ホームページANNEX   Field of View

大企業の新卒採用改革にはCSRの観点が必要

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日本経団連は12日、企業の採用広報活動の開始を大学3年生の12月1日以降とする方針を発表した。それ以前は、インターネットによる情報発信など個別の学生を対象としない活動に限定し、大学が行う学内セミナーなどへの参加は自粛する。2013年4月年入社予定者(現在の大学2年生)から適用される。

 経団連は1997年に就職協定を廃止し、2009年に採用と選考活動を明確化するなど採用規定を見直しているが、今回の改訂も抜本改定である。ただ、現在の倫理憲章に参加しているのは加盟約1,280社のうち65%にすぎず、憲章に拘束力はない。また、選考開始時期を現行より遅くする必要はないというスタンスである。

 これに対して、経済同友会の桜井正光代表幹事は、20日の講演で、選考時期について、経団連より踏み込んだ発言をしている。「採用選考は大学4年生の8月1日以降に、企業説明会など広報活動は3年生の3月1日以降とする」ことが提案の骨子である。これが実現できれば、大学の講義に支障をきたしている長期間の採用活動がかなり是正できる。

 また、就職先が決まらずに卒業してしまった、現在約10万人に上る「既卒者」の取り扱いにも変化がみられる。厚生労働省が雇用対策法に基づいて昨年末に改正した指針によると、卒業後3年以内の既卒者は新卒者の枠内で採用する努力義務が企業に課せられるようになった。既に三菱東京UFJ銀行、パナソニック、三井物産、JXホールディングスなど多くの企業が既卒者採用を始めており、トヨタ、関西電力なども2012年春からの導入を表明している。シャープや三井不動産は3年の年数制限も撤廃する予定である。さらに、経済同友会は21日、既卒者を対象に官民連携で就業体験(インターンシップ制度)を導入する案を発表した。

 現状を改善しようという官民の努力がみられるが、残念ながら下記の根本的な問題の解決策が提示されていない。問題点とは、大企業の採用枠の絶対数不足、インターネットが作りだした厄介な二極化の二点である。

現在の「就職氷河期」は2000年前後と比べるとまだまし

 (株)リクルートのワークス研究所の調査によると、2011年3月卒を対象とした大学生の求人倍率は1.28倍で、前年の1.68倍と比較すると、大幅に下がった。これは、リーマンショック前の2.14倍から約4割求人倍率が低下したことを意味する。因みに、バブル絶頂の1991年の有効求人倍率は2.88倍で、極端な売り手市場だった。

 ただITバブル破裂の時は今より状況が深刻で、2000年の求人倍率は0.99倍で、1.00を割り込んでしまった。この数字は調査開始の1987年以来最低だが、2000年前後6年間は倍率がおおむね1.3倍以下で、今はそれに比べれば求人は多い。

変動が大き過ぎる大企業の採用枠

 だが求人倍率がそれほど低くないとはいうものの、大企業の個別企業の採用人数をみると、変動が極めて大きいことが分かる。例えば、三菱東京UFJ銀行の場合、報道によると2007年の採用人数は2200人だったが、今年は650人程度まで落ち込んだ。3年前より7割も採用が減ったことになる。来年度の採用は今年度比3割ほど増やす予定だそうだが、同行だけでなく他の大企業も似た傾向である。学生の人気が高い大企業の採用状況がここまで激変すると、求人倍率からは読み取れない大きな変化が採用の現場で起きてしまう。この問題は、既卒者枠を作ったり、インターンシップを拡充したりしても解決できない。

二つの「二極化」

 企業規模別や業界別にみると、 求人倍率には二種類の二極化が起きていることが分かる。まず、大企業(従業員数1000人以上)の今年の新卒への求人倍率は0.57倍で、中小・零細企業(同1,000人未満)の倍率は2.16倍である。学生は大企業を志望してもなかなか合格できず、逆に中小企業は採用難ということが、ひとつ目の二極化現象である。

 二つ目は業種別二極化である。今年の場合、サービス・情報業と金融業は人気が高く、各々、倍率は0.2倍、0.48倍しかない。これに対して、製造業は1.66倍、流通業は4.17倍である。IT、証券、金融には学生が殺到して、インターネットやコンサルティングには希望者の5人に1人しか就職できないが、地味なメーカーや仕事がきつそうな流通業には人が集まらないという構図である(仕事のきつさはどこも一緒だが)。もっともこのような業種別の「序列」は過去20年間続いた傾向である。

インターネットが大きくした二極化の弊害

 私は、インターネットによるエントリーの弊害が、就職難の印象を強めていると思う。経済同友会が約220社を対象に調査したこところ、採用にインターネットを利用している企業は90.5%に達する。

 学生は何百社でもエントリー可能だし、実際にそうする人が少なくない。その結果、採用定員が数十人しかない企業に、数万人の出願者が集まるという事態が生じる。数万人の出願者を書類だけで一次選考するのである。前出の経済同友会の調査によると、学生を選ぶ基準のベスト3は、「熱意・意欲」「協調性」「行動力・実行力」であるが、ネット出願書だけで、どうやってこの基準を適用するのだろうか?これでは、企業が本来取りたい人材がこぼれ落ちる可能性が高い。また、ネットがあることによって、冷やかしの出願をする学生が多くなる。ネットのお陰で企業の人事部は余分な仕事が増え、学生も数十社連続で不合格となり、さすがに意欲が失せる。両者にとって徒労感が大きいのである。

 ネット・エントリーを見直し、昔ながらの電話と面接中心にすれば、学生も真剣に企業を選び、倍率が1,000倍を超える無意味なことも減るだろう。ネットを使わなければ採用コストが増えるという人がいるかもしれないが、それはやり方次第である。採用する企業にも、現状では、良い人材が取れないという問題意識を持った人が少なくない。例えば、ある大手都銀は、社員や取引先の紹介(昔でいうコネ)枠での採用を増やしている。何らかの基準によって事前スクリーニングをした方が、社風に合った人材を取ることができ、結果として採用コストも下がるはずである。

大企業による安定採用とCSR

 大企業に求められることは、景気変動に過度に左右されない、安定、継続した採用計画である。景気変動に応じて採用人数の極端な増減を行えば、不景気の時は良い人材を取りこぼし、好景気の時は人を取り過ぎて、人材の平均的な質が下がってしまう。自社がリストラを行っている時は採用を抑制する必要があるといっても、新入社員の人件費は中高年に比べれば大したことはない。こう説明すれば、株主の納得も得られるはずだ。

 学生の安定的な採用は大企業の社会的責任(CSR)だということが再認識されるべきである。「我が社の財産は人です」と社長が公言するのであれば、高価なCSRレポートを作るだけでなく、「若者の安定的雇用というCSR」を果たすべきである。大企業には、中小企業より余裕がある。

努力が必要な大学と学生

 企業だけでなく、大学や学生にも努力が必要である。私の大学では、学生に丁寧な就職指導をし、中堅・中小企業の採用情報を詳細に伝え、人事部の紹介まで行っている。昔の大学と違って、至れり尽くせりである。企業側には「我々が望むような学生が集まらない」という不満があるが、大学で実学教育をするといっても限界がある。一方、今の学生は事前に企業のことをよく研究してはいるが、大企業就職が絶対に良いということは誤解だと教えても、真に受けない学生が多いことは事実である。

 18日の政府発表によると、今年の就職内定率は68.8%で、調査開始の1996年以来、過去最低であった。私ごとで恐縮だが、私のゼミ生は、このご時勢で全員就職が決まっている。ゼミ生の中に印象的なA君とB君がいる。A君は超人気のシステム企業に落ちたが、他の大企業の子会社に採用された。彼は、「この会社で一番になって、僕を落としたあの会社にキャリア採用で入って、出世しますよ」と言っている。B君は、いくつかの大企業の最終面接で落ちたが、中国企業に職を得て、春に中国大連に渡る。新卒学生が中国企業に入社するのは、まだ少数派である。「これからアジアの時代になるのであれば、アジアで修業して、将来起業します」と語っている。

 こういうたくましい学生たちを、取りこぼさないようご注意を。

ウォールストリート・ジャーナル1月24日コラムReprinted with permission of The Wall Street Journal, Japan. Copyright © 2010 Dow Jones & Company, Inc. All Rights Reserved Worldwide